コロナへの挑戦 トシリズマブ

4月8日中外製薬が、新型コロナ肺炎に対する治療薬として、同社が販売しているトシリズマブ(アクテムラ®)の治験を開始すると発表した。

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トシリズマブは中外製薬大阪大学が共同開発した薬剤である。

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同薬はインターロイキン6(IL-6)の働きを阻害する、抗ヒトインターロイキン6抗体薬製剤である。

IL-6は炎症によって生じる化学物質(サイトカイン)のひとつである。

サイトカインは感染等を契機に体内で生成、それらが様々な症状を引き起こす。サイトカインは免疫応答で作られたものなので、それ自体は免疫に必要な物質なのだが、過剰であると、却って器官や組織を傷つけてしまう。

トシリズマブはサイトカインのひとつであるIL-6の作用を阻害することで、炎症を抑え込む薬である。

現在トシリズマブは現在関節リウマチ、成人型Still病、キャッスルマン病などの8つの膠原病、自己免疫疾患に対して保険適応が認められている。

 

新型コロナ肺炎の悪化の原因に「サイトカインストーム」というものがある。ウィルスそのものが肺を攻撃するのではなく、コロナウィルスの感染によって、肺内に様々なサイトカインが生成、放出されることで肺内の組織が障害、ダメージを受けてしまうという事象である。

なので、新型コロナ肺炎の治療のひとつとして、このサイトカインストームを防止して、肺障害を防止するというものがある。

その治療薬にトシリズマブが挙げられたのだ。

 

トシリズマブの印象は「最強の免疫抑制剤」である。

数多くの関節リウマチを診ている、ある病院の整形外科部長がそう言っていた。

関節リウマチにも使用が認められているが、通常の免疫抑制剤では効かない、重症例に使われている。

 

しかしながら良いことばかりでない。

同薬はリウマチ以外の炎症をも抑え込んでしまう。トシリズマブ投与中のリウマチ患者さんが感染を起こしても、見過ごされてしまうのだ。

さらにトシリズマブを使用していると、血液検査における炎症反応も正常化してしまう。僕らはよく採血でCRPという検査項目を使うが、炎症が高くても同薬を使用しているとCRP値が正常化してしまうのだ。

これは怖いことである。

実際に炎症が起こっている、体内で大変なことが起こっているのにそれが血液検査で表れないのである。

そのためにトシリズマブを使用しているときは、感染を起こしてないか、CRP値以外のことで注意深く観察しないといけないのだ。

 

なのでトシリズマブは、無症状や軽症の患者さんの適応はない、使ってはいけない。同薬使用で新型コロナウィルス以外のウィルスや細菌の感染症を起こしてしまうかもしれないからである。

さらに結核をも患っているコロナ患者にも使用できないかもしれない。結核が悪化してしまう可能性があるからだ。

 

そして同薬は新型コロナ感染を防止する作用はない。その作用を持つのは薬ではなくワクチンであるからだ。

 

同薬は新型コロナ肺炎でARDSや呼吸不全を起こしてしまった患者さんの救世主となるかもしれない。そのためにはきちんとした使い方が大切である。