3M、悩めるアメリカ企業の優等生
3Mはアメリカの世界的化学、電気素材メーカーです。
3MのMはMinnesota Mining & Manufacturing Co(ミネソタ・マイニング:マヌファクチャリング)の頭文字をとったものです。
日本語に訳すと「ミネソタ鉱業製造会社」になるでしょうか。
その後3Mの名称が有名になったためか、「3M Company」に変更されています
3Mは実に沢山の製品を製造しています。
文房具や電気素材、医療品などなど。製品数はなんと55000以上もあるのです。
私は病院で内科勤務医として働いていますが、病院内にも実に多くの3Mの製品があります。
医療用テープ(サージカルテープ)
心電図の電極版
あと、聴診器はたいがい3M製です。聴診器は「Littemann(リットマン)」というブランド名で販売されています。私は3MリットマンカーディオロジーⅣという製品を使っています。
日本においては何と、89%が3Mの聴診器が使用されているとのことです。すごいですね(m3.Comより参照医療機器 聴診器を知る|m3.com開業・経営)
3Mの経営手法としては「15%ルール」が有名です。これは同社従業員が勤務時間の15%を、日々の仕事にとらわれない活動にあてること推奨することです。
そして同社は2022年4月19日に「Work Your Way」という働き方の導入を表明しています。これは働く場所や働き方を会社が指示するのではなく、社員が上司と話し合い、「在宅勤務」「出社」「ハイブリッド(在宅勤務と出社)」から自分に合った勤務形態を選べる制度です。そしてそれぞれの働き方を選択した社員が協議しやすいよう、会議や打ち合わせはオンラインを優先した「バーチャルファスト」を推進するとのことです。
出社にこだわらない斬新な勤務形態です。こうした勤務形態がどうなるのか、これから楽しみですね。
さて、3Mの株価ですが、こちらは2018年1月1日をピークとして下がり続けています。
このときの株価は1株250ドルでしたが、2023年5月10日にとうとう100ドル未満にまで下がってしまいました。5月22日時点の株価は99.03ドルです。
PERは9.68倍と当然のように割安水準となっています。
株価が下がった理由として以下のことが考えられています
◯米中貿易摩擦
◯貿易摩擦後の業績悪化
う~ん、そうなのかそうでないのかよくわからない理由ですね。
株価がパッとしない原因を決算から推測することができるでしょうか?
決算をみていきましょう。
2023年4月25日に第2四半期の決算が発表されました。
まずEPSは1.97ドルであり、予想1.58ドルを上回りました。
売上は80.3億ドルであり、こちらも予想74.8億ドルを上回りました。
ただこの決算を受けた日も株価は下落しています。
ここ最近の財務をみてみましょう。
まず損益計算書からです。四半期ごとではなく通期でみていきます。
総収入、営業利益、当期純利益ともに横ばいですね。それほど悪くはないように思えます。
ちなみに3MのROE(自己資本利益率、当期純利益を自己資本(株主資本)で割ったもの)は36%です。一般的に10%を超えると優良企業と言われているため3Mはその基準を軽くクリアしています。
次に貸借対照表です。こちらも通期です。
こちらも総資産、総負債ともに横ばいですね。総資産は増えていませんが、かといって総負債が急激に増えて赤字になっているわけではありません。
それでは最後にキャッシュフロー計算書です。
2020年以降、投資CFが大幅に減っています。また財務キャッシュフローが同時期頃から大幅にマイナスになっていますね、
財務キャッシュフローが大きな値動きをしたので詳しくみていきます。
もう少し細かくみた表です。
オレンジ色の枠が財務CFの合計です。すると2つ下に配当金支払いがあります。33.69億ドルマイナスになっており、財務CFの60%を株主への配当金支払いにあてているのですね。
2019年度の財務CFが2020年度以降よりも少ない理由を水色で囲っています。債券発行によるキャッシュの調達です。2020年度からは償還に転じているために財務CFが増えています。
3Mは高配当株として有名です。1株あたりの配当金、配当利回り、配当性向をみていきましょう。
配当性向とは当期純利益に占める年間の配当金の割合を示す指標です。
一株当たりの配当金は5~6ドルであり、配当利回りも5~6%くらいです。
配当性向は60~70%の間くらいです。ちなみにアメリカ企業の平均的な配当性向は30~40%くらいです。3Mの配当性向はかなり高いのですね。
財務表から3Mの財務は悪くないことがわかりました。
それではなぜここまで株価が下がってしまったのでしょうか?
僕の推測としては、投資家にとってのsurpriseが無いためと思っています。
驚くような新製品の発表、開発や大型買収など、投資家がおっと思うようなことがない。そうなると投資家の目に留まるのは退役軍人に起こされた耳栓の訴訟案件や、ヘルスケア事業のスピンオフなどに目がいってしまいます。
そうした偏重した注目が株価を下げる方向に働いてしまっていると思います。
優等生企業だから株式市場から評価されない。3Mはそのような理不尽な憂き目にあっている最中です。