シクレソニドとCOVID-19

今シクレソニドという薬が注目を浴びている。同薬は気管支喘息の吸入ステロイド薬である。

注目の理由は日本感染症学会から3月2日に「シクレソニド吸入が有効であったCOVID-19陽性患者の3症例」という内容の論文が公表されたためである。

 

僕も同薬を3人ほどの外来患者さんに処方している。僕としては商品名のオルベスコ®のほうがなじみがある。

 

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帝人ファーマHPより引用

シクレソニドは2007年に帝人ファーマ(3401)から発売された。同薬は

①1日1回吸入

②プロドラックであるために肺胞粘膜吸着後に効果を発揮する

③加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)である

という特徴があった。

そのために

①⇒必要吸入回数が少ないために、仕事で多忙な人、ずぼらな人にも使える

②⇒他の救急ステロイド薬と比べて口腔カンジダ症などの有害事象が低いかもしれない。吸入後にうがいをしない面倒くさがりの人、嚥下機能に不安がある高齢者にも使用しやすそう

③⇒ドライパウダー(DPI)式と比べて吸入力の弱い高齢者にも使えそう

となんと良いところずくめの吸入薬だと感じた記憶がある。そのため結構処方をした。

 

しかしながら、その後吸入ステロイド(ICS)/長時間作用型気管支拡張薬(LABA)の合剤、アステラス製薬からシムビコート®(現在はアストラゼネカが販売)、グラクソ・スミスクラインからレルベア®が販売、その他沢山の吸入薬が販売された。それに対して販売会社の帝人はシクレソニドをそれほど宣伝しなかった(と僕は勝手に思っている)ために、同薬は徐々に気管支喘息の治療薬の中でもマイナーな存在になっていったと思われる。

 

でも先に行った同薬の特徴はかなり魅力的であるので、呼吸器内科医としては重宝する薬剤なのである。

 

そんなオルベスコ®が現在世界を大混乱に陥れている新型コロナウィルスの治療薬のひとつとして突如大きな脚光を浴びた。そのため昨日の帝人の株価が19円、1.02%上昇した。

 

n数が3という症例報告であるために、この論文だけで僕がCOVID-19に対する同薬の効能を語ることはできない。しかし同薬は一本の薬価が2000円前後と比較的安価な薬剤である。そのために同薬、さらには吸入ステロイド薬の知見を集積することを願っている。